大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和49年(タ)17号 判決 1976年7月19日

原告

甲野花子<仮名>

右訴訟代理人

倉本英雄

被告

甲野太郎<仮名>

被告

乙山春子<仮名>

右両名訴訟代理人

横山隆徳

主文

原告と被告甲野太郎とを離婚する。

原告と被告甲野太郎間の長男一郎<仮名>(昭和三七年一一月二四日生)、二男二郎<仮名>(昭和三九年一〇月二八日生)、長女夏子<仮名>(昭和四五年八月六日生)の親権者を原告に指定する。

原告に対し被告甲野太郎は金二〇〇万円、被告乙山春子は金一〇〇万円及びこれに対する本判決確定の日から支払ずみにいたるまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

被告甲野太郎は原告に対し、金三〇〇万円を支払え。

原告のその余の慰藉料請求はこれを棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その三を被告甲野太郎の負担とし、その一を被告乙山春子の負担とし、その一を原告の負担とする。

事実

第一  双方の求めた裁判

一、原告

(一)  主文一、二項同旨

(二)  被告らは各自原告に対し金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被告甲野太郎は原告に対し、金一、〇〇〇万円を支払え。

(四)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(五)  (二)項に仮執行の宣言

二、被告両名

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  双方の主張<以下省略>

理由

一<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被告太郎は、水戸市A前にある有限会社甲屋支店の社長である訴外甲野秋吉<仮名>の長男で、右会社の営む割烹旅館甲屋の営業を父とともにしていた。

被告太郎は、昭和三六年六月一五日丙川冬子<仮名>と婚姻し、右甲屋に両親とともに同居していた。原告は、昭和三六年一一月頃親戚の飲屋の手伝をしていたときに飲みに来た被告太郎と知り合い、昭和三七年二月には肉体関係を持つにいたり、間もなく原告方に同棲し、被告太郎の妻冬子が実家に帰つた後の昭和三七年一〇月頃、原告と被告太郎は被告太郎の父秋吉方に同居し、昭和三七年一一月二四日長男一郎が出生、昭和三九年二月七日婚姻届をなし、同年一〇月二八日二男二郎が出生、昭和四九年八月六日長女夏子が出生した。その間昭和三八年五月二五日被告太郎は妻冬子と協議離婚をした。

(二)  原告は、被告太郎方に同居する様になつてからは、割烹旅館の営業の手伝をして働き、二男が出生する頃まで、夫婦の仲はとりたてる程のこともなかつたが、昭和四〇年九月頃、被告太郎が谷中の芸者をしていた被告乙山(当時二〇才)と知り合い、同人を水戸市B町に家を借りて住まわせ、一年の半分位は被告乙山のところに泊る様になつた。原告は気性の激しい性格であつたので、被告太郎を責め、これが原因となつて被告太郎は原告を殴る様になつた。昭和四〇年頃原告は被告乙山方を訪ねて被告太郎と手を切ることを求め、鋏で被告乙山の頭を丸坊主にし、その際三針も縫う怪我を負わせ、又或るときはガラス戸をこわして被告乙山方に入り、被告太郎と手を切ることを求めたこともあつた。

(三)  原告は、昭和四九年七月一七日被告太郎にお前の顔みると胃が悪くなると言われたので同じことを言返したところ、被告太郎に衣紋かけで腕を殴られ、全治一〇日間の打撲症を受け、更に暴行される危険があつたので、子供三人を連れて原告の実家に戻つた。それまでの間原告は、被告太郎に暴行されて実家に逃げ帰り、医者の治療を受けたことが数回あり、その際何回か離婚話がでたが纒らなかつた。原告は現在その両親とともに自己所有の住宅に住み、子供三人を養育しながら百貨店に勤務し、月収金七万五、〇〇〇円を得ている。被告太郎は、原告と別居後妻の生活費は勿論、三人の子の養育費は全く支払つていない。

(四)  有限会社甲屋支店は、いわゆる同族会社で、水戸市では有数の料亭であり、従業員は家族を含めて二五名位、年間売上金九、〇〇〇万円でその純益は三割程度である。

原告は、甲屋支店に住む様になつてから別居するまで、その営業のため、魚の販売、客の下足、電話番、洗濯等をして働いたが、その手当として支給されるものは被告太郎と三人の子供の生活費に充てられていた。又自宅(現在住んでいる。)を建築するとき被告太郎の父秋吉から金五〇万円の贈与を受けたほか、他に贈与されたものはない。被告太郎は、甲屋支店から月給金一八万円の支給を受けているが、食事等は会社でできるのでほとんど自分のために消費している。会社の資産、被告太郎の父秋吉の資産はあるが、被告太郎は、原告と婚姻後金一六〇万円で買受けた土地を所有するほか、みるべき財産はない。

(五)  被告乙山は、被告太郎と肉体関係をもつて間もなく妻の原告がいることを知つたが、被告太郎の出してくれた金で家賃を払い、被告太郎が被告乙山方に泊ることは度々であつた。被告乙山は一年位で芸者をやめ、会社に勤めたり内職して或程度の生活費を得ていた。被告太郎は、本件訴訟が提起され、これが家庭裁判所の調停に付された際、調停委員に被告乙山との関係が訊されたことから、昭和四九年一一月頃被告乙山と手を切つた。被告乙山はその後東京に移り、身内の営むラーメン屋等の手伝をして生活している。

右認定に反する<証拠>は、前掲証拠に対比して採用できず、他に右認定を動かす証拠はない。

二右認定の事実によると、被告太郎に不貞行為があつたものというべく、従つて離婚を求める原告の請求は理由がある。そして原告と被告太郎との間の三人の子は、原告の許で養育され、一応安定した生活をしているので、三人の子の福祉のためには今にわかに環境を変えるのは相当でないので、三人の子の親権者はいずれも原告と指定する。

原告の慰藉料請求の点については、被告太郎の暴行、不貞行為、被告乙山の被告太郎に妻のあることを知りながら肉体関係をしたこと、これが原因となつて離婚の事態を招いたものであつて、ともに不法行為に当る。もつとも原告は被告両名は、その全部について共同不法行為者であると主張するけれども、被告太郎が原告に対してなした暴行の点については、被告乙山に責任を認めるに足る資料はない。そして前認定の諸事情を総合すると、被告太郎の原告に対する慰藉料は金二〇〇万円、被告乙山の原告に対する慰藉料は金一〇〇万円(従つて被告両名の共同不法行為者としての連帯負担部分は金一〇〇万円となる。)と認めるのが相当である。従つて原告に対し、被告太郎は金二〇〇万円、被告乙山は金一〇〇万円及びこれに対する本判決確定後から(離婚に基づく損害賠償を含むところ、これは判決確定によつて生じ、今この部分を分離し難い。)支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

原告の財産分与の点については、前認定の諸事情、特に原告は長期間甲屋の営業のため働き、手当として受領したものはあるけれどもほとんど原告夫婦と三人の子の生活費に充てていたこと、有限会社甲屋支店の規模は前叙のとおりであるところ、その営業収益は、原告の労働の寄与分(手当を超えて)があつたものと考えられるところ、被告太郎は有限会社甲屋支店の社員(社長)である甲野秋吉の長男として、いずれはこれを承継し得る地位にあるのに対し、原告の右寄与分を原告に還元するには財産分与の手段しかなく、これがまさに民法が財産分与を認めた趣旨と解されるので、被告太郎の右地位を財産分与の額を定めるに当つて考慮すべき事情となし得ること、被告太郎は原告との婚姻中自分の給料は他に消費し、原告が取得した手当で原告夫婦とその子三人の生活費を賄つていたこと、被告太郎は原告と別居後原告の生活費は勿論、三人の子供の生活費も支出せず、原告がこれを負担していること、被告太郎は原告と婚姻後その名において土地を取得していること、被告太郎は毎月有限会社甲屋支店から相当の俸給を得ていること、等の点を併せ考えると、財産分与の額は金三〇〇万円と定めるのが相当である。

三以上のとおり原告の本訴請求は、右認定の限度において理由があるので正当として認容し、その余の慰藉料請求部分は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を適用し(仮執行の宣言はこれを付し得ないので却下する。)、主文のとおり判決する。 (菅原敏彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例